PIP(Performance Improvement Plan, 業績改善プログラム)には、①本来の目的どおり対象者の業績を改善するための正当な手段として用いられる場合と、②対象者を退職勧奨・解雇に追い込むための不当な手段として用いられる場合とがあります。
外資系企業や、外資系と同様の職能制度を採用している一部の日系企業では、PIPは②の不当な手段として用いられることがよくあります。特に、PIPで定められた目的が達成困難なものであったり、評価基準が不透明であったり、業績改善までに従業員に与えられた期間が著しく短いなどの問題があるにも関わらず、目標未達ゆえ解雇はやむを得ないなどと主張して、性急な解雇を正当化しようする例が後を絶ちません。
以下で、PIPの問題点、従業員が取るべき対応などを、Q&Aでご説明します。
PIPに関するQ&A
Q:PIPを受けるように言われたが、これは本来の目的どおり(自分の業績改善のため)のものなのか?
A:対象者のこれまでの業績、PIPを提示されるに至る過程での上司や人事部とのやりとり、PIPの期間や内容などから総合的に判断するしかありません。ただし、「目標を達成出来ないと辞めざるを得ない」「一度目標を達成しても、また業績が下がれば即解雇する」など、対象者が最終的に会社を去ることを最初から前提にしている場合には、業績改善のためではなく退職に追い込む手段としてPIPを悪用していると判断すべきです。
また、業績改善のために設定された期間が余りに短い場合や、「PIP期間途中でも解雇されることがある」と規定されている場合なども、やはり対象者を辞めさせる不当な手段としてPIPを用いていると考えられます。
不当と思われるPIPを提示された場合、残念ながら、その後近い将来に会社が退職勧奨や解雇主張を行ってくることを覚悟せざるを得ません。
Q:それでもPIPを受ける方向で考える場合、会社に対して何を行うべきか?
A:自分がなぜPIPを受ける必要があるのかを会社に問い、会社が把握している自己の問題点について具体的な説明を求めましょう。また、PIPで定められた目標数値や期間の妥当性、評価方法の明確性、目標不達や目標達成時の処遇などについて質問するとともに、会社の説明に納得がいかない点がある場合にはその旨を真摯に指摘しましょう。これらのやり取りは書面で行いましょう。
会社側の説明内容に余りに不合理な点がある場合、期間内にPIPを打ち切る旨が記載されている場合などでは、可能で有れば弁護士のアドバイスも受けた上、その部分の訂正を求めましょう。
これらの問いに対する会社の対応ぶりが不十分であったり、そもそも相手にしてくれない場合、またPIPの開始前や最中であるにも関わらず会社が解雇や退職勧奨を強く示唆してくる場合であれば、もはや弁護士の関与なしでは事態が改善しない状況になっているものと思われます。
Q:PIPを受ける場合、他にはどのようなことに気をつけるべきか?
A:PIPを受けるのであれば、絶えず気持ちを強く持つことを心がけるとともに、必要が生じた際には誰かに相談が出来る体制を整えましょう。
PIPを受ける側は、業績改善への心理的重圧や、上司や人事からの継続的な圧力、時には罵詈雑言を受けることや周囲から孤立させられることなどで、精神的に参ってしまうおそれがあります(不当な目的でPIPが利用される場合、対象者がその会社で働き続けようという意欲を削ぐべく、会社は対象者をあからさまに冷たく扱うことでしょう)。
精神をやられてしまっては元も子もありません。絶えず強い気持ちを持ってPIPに臨むことを心がけるとともに、困難な状況に陥ったときは身近な人への相談や専門職(医師、弁護士等)の助言を得ることを積極的に検討しましょう。一人でPIPを受け続けるのと、適切なサポーターのアドバイスがいつでも得られる状況にいるのとでは、精神衛生面で大きな違いがあります。
Q:他方、PIPを受けたくない場合にはどうしたら良いか?
A:PIPを受ける側の精神的負担は極めて大きいため、PIPを受けたくないというのも従業員側にしてみればごく当然の反応だと思います。ただし会社としては、(本来は不当な目的でPIPを利用しているにも関わらず)「対象者が業績を改善する正当な必要が有り、そのための機会を与えようとしたにも関わらずこれを理由無く拒んだため、退職はやむを得ない」などとして、対象者に対して退職勧奨や解雇の通知をしてくるでしょう。
会社の姿勢がどれほど強硬か否かによりますが、一定のパッケージを用意した上での退職勧奨から、何の便宜も提示せずに解雇を主張してくるなど、様々なケースがあり得ます。この場合も出来れば弁護士関与のもと、「本来であればPIPを行う必要性がないこと、PIPの目標設定・評価方法・期間が不合理であること、解雇という結論に相当の理由が無いこと」などについて法的な主張を会社に投げかけつつ、PIPの中止・解雇無効による復職を求めたり、やむなく退職を受諾するとしてパッケージの最大化を目指すことになるでしょう。